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設立趣意書
今日、日本の科学技術は、欧米先進国なみといわれるが、それはただ表面的あるいは部分的なことで、真の意味での国際的水準とは言いがたいのが実情ではなかろうか。日本独自の科学的発明や発見が少なく、産業界が欧米先進国にいかに多額の技術導入料を支払い、これにたいし、日本が受ける特許料がいかに少ないかという一事からも明らかである。欧米に比して近代科学の歴史が浅いとはいうものの、明治維新後100余年が過ぎた今日、科学研究の面においても、それを利用する産業界においても、日本にオリジナリティをもつ独創的な発明や発見が貧困で、底の浅さが強く指摘されている。これは、外国で基礎研究されたものをそのまま採り入れ、これを応用することにかけては長じているけれど、基礎研究そのものを軽んじてきた日本の学界および産業界の盲点がしからしめたところであるといっても過言ではない。
また、応用面の研究には高率の資金が投下されるが、基礎面の研究には、きわめて低率なことにも問題がある。医薬品ひとつを例に取ってみても、現在日本で売られている医薬品の大半は、欧米の研究者の手で研究され、その息のかかったもので占められており、日本人の手で研究されたものは、きわめて少ない。近時、日本製品の海外輸出が興隆をきわめているなかに、ひとり日本製医薬品の輸出のみが貧困で、ほとんど見るべきものがないのも、一にこれに起因する。これは医薬品にかぎらず、人類の疾病の予防と治療に関する自然科学のあらゆる分野についても同様であり、この面の基礎研究の振興が叫ばれている。
資本も貿易も、広く世界に門戸を開いた今日、これら欧米先進国に負けず劣らず日本の科学技術水準を進歩向上させるためには、まず自然科学の基礎的研究の発展が要望される。しかるに、自然科学の基礎的研究に携わる者にとっての悩みは、これに要する研究費の不足である。自然科学の基礎的研究の振興なくして、すぐれた応用科学品を産み出すことは、木によって魚を求めるにひとしいたとえのとおりであって、より多額の研究資金が渇望されるゆえんである。
これらの現状にかんがみ、国または個人たるとを問わず、自然科学、なかんずく人類の疾病の予防と治療に関する研究の助成に重大なる関心を示し、すすんでその資金を提供することが、わが国の科学技術が、真の意味での国際的水準に達する一助ともなりうるであろうと信ずる。
さて、エーザイ株式会社の創業者たる内藤豊次から、人類の疾病の予防と治療に関する自然科学の助成のために役立てたいと、その所有する株式50万株の提供があった。同氏は、中学中退後、苦学力行し、薬業界に身をおくこと50余年、国産医薬品の研究開発を目的とした桜ヶ岡研究所、日本衛材株式会社、エーザイ株式会社を創立し、日本における最初のビタミンC合成をはじめ、ビタミンA、D、Eなどの企業化、国産医薬品の研究開発とその育成普及など、医薬品を通じて人類の健康増進に大きな業績をあげたが、かねがね、外国品の模倣追従に明け暮れている業界の現状を不満としていたが、このたび、私財の一部を広く自然科学振興助成のために提供したいとの申し出があった。
さらに、エーザイ株式会社から、創業25周年を記念して、社業収益の一部を社会還元して科学振興に役立てるべく、1億円を提供する旨、申し出があった。
よってここに、財団法人内藤記念科学振興財団を設立し、人類の疾病の予防と治療に関する自然科学の研究を奨励し、もって学術の振興と人類の福祉に寄与せんとするものである。当財団の事業が、これら研究者の研究の一助になりうるならば、発起人一同の喜びは、このうえもないところである。
- 昭和44年(1969)2月26日
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- 設立発起人
- 緒方知三郎 石橋長英 高木誠司 森高次郎
内藤豊次 内藤祐次 田辺普
- 設立年月日
- 昭和44年(1969)4月7日