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2008年度 内藤記念科学振興賞

内藤記念科学振興賞に、慶應大学教授・上村大輔先生、
理化学研究所グループディレクター御子柴克彦先生の両氏

内藤記念科学振興財団(理事長:内藤晴夫)は、このたび開催されました理事会において、慶應義塾大学理工学部 教授/名古屋大学 名誉教授 上村大輔先生および理化学研究所脳科学総合研究センター グループディレクター/科学技術振興機構ERATO, ICORP-SORST代表研究者/東京大学 名誉教授 御子柴克彦先生に「第40回(2008年度)内藤記念科学振興賞」を贈呈することを決定いたしました。

受賞者には、賞状、金メダルのほか、副賞1,000万円が贈られます。

贈呈式は、3月17日(火) 午後3時30分より、日本工業倶楽部大会堂にて行なわれます。

受賞対象研究内容及びご経歴

上村大輔先生

御子柴克彦先生

上村大輔先生

受賞対象研究内容

テーマ:『生物現象に着目した生物活性天然物の探索研究』

上村先生のご研究は、顕著な生物活性を有する新しい天然有機化合物の探索に関するものです。それには先見性の高いテーマ設定と分離分析科学の粋を集めた構造研究が不可欠ですが、加えてその展開利用までを見据えることが重要となります。天然有機化合物の展開研究における最大の難関は必要なサンプル量の提供であり、天然物化学者がこれを行わなければ化合物の機能解明は永久に不可能となってしまいます。

上村先生が世に送り出された、歴史に残る数々の化合物は単に化学構造が新奇であるに留まらず、関連科学分野の飛躍的発展を促すものとなりました。具体的には、Na+, K+-ATPaseのチャネル構造研究の端緒となったパリトキシン、誘導体(エリブリン)が抗乳がん治療剤として期待されているハリコンドリンB、動物試験により骨粗鬆症治療薬の可能性が示唆されたノルゾアンタミン等が例示されます。また、ブラリナトガリネズミの顎下腺から得たブラリナトキシンは哺乳類由来の最初の毒として注目されました。

最近は、渦鞭毛藻由来で分子量が5,000を超える長い炭素鎖からなる化合物のほか、抗炎症性物質や生活習慣病の治療薬となり得る新規物質を報告されております。さらに、化合物の生合成経路を考察した特殊な反応を触媒する酵素取得や化合物のソースとしてマリンゲノムに注目した物質探索も開始されており、その成果が期待されています。

以上のような研究業績が高く評価され、第40回内藤記念科学振興賞に選考されました。

経歴
  • 生年月日:
    昭和20年10月27日
  • 勤務先:
    慶應義塾大学理工学部生命情報学科
    〒223-8522 横浜市港北区日吉 3-14-1
    Tel & Fax: 045-566-1842
    http://www.bio.keio.ac.jp/labs/uemura/
  • 学 歴:
    昭和43年3月
    名古屋大学理学部化学科卒業
    昭和48年4月
    名古屋大学大学院理学研究科博士課程単位取得満期退学
  • 学 位:
    理学博士(昭和50年5月 名古屋大学 理学第221号)
  • 職 歴:
    昭和48年4月
    名古屋大学理学部助手
    昭和54年3月
    静岡大学教養部助教授
    昭和57年6月~9月
    ハーバード大学客員研究員
    平成 3年4月
    静岡大学教養部教授
    平成 7年10月
    静岡大学理学部教授
    平成 9年10月
    名古屋大学大学院理学研究科物質理学専攻教授
    平成17年4月
    名古屋大学高等研究院流動教員(併任)
    平成20年4月
    慶應義塾大学理工学部生命情報学科教授 現在に至る
    平成20年4月
    名古屋大学名誉教授 現在に至る
    平成3年4月~同12年3月
    財団法人相模中央化学研究所研究顧問
  • 受賞歴:
    昭和52年4月
    日本化学会進歩賞(トウダイグサ科植物の有毒成分)
    平成18年3月
    日本化学会学会賞(海洋天然物の生物有機化学的研究)
    平成19年5月
    中日文化賞(海洋天然物の生物有機化学的研究)
  • 所属学会など:
    日本化学会、日本薬学会、日本農芸化学会、有機合成化学協会、米国化学会、英国化学会
  • 編集委員:
    平成10~12年
    Bulletin of the Chemical Society of Japan誌編集委員
    平成15年~
    The Chemical Record誌編集委員
    平成16年
    日本化学会東海支部長
    平成16~18年
    国際純正・応用化学連合 第25回天然物化学国際会議・
    第5回生物多様性国際会議 組織委員長(2006年京都開催)
    平成17~18年
    日本化学会理事
    平成17年~
    Beilstein Journal of Organic Chemistry誌編集委員
    平成18年~
    Natural Product Reports誌編集委員

御子柴克彦先生

受賞対象研究内容

テーマ:『中枢神経系の発生と分化 -IP3受容体の発見とその機能の解明』

御子柴先生は、ミュータントマウスと正常マウスとの比較解析を行い、行動異常と形態形成異常と分子異常との比較検討を行うことにより、行動・形態・分子との対応づけに成功。単に正常の解析だけでは明らかにし得ない脳の発生・分化の分子機構の解析に多くの成果を得ています。特にIP3受容体の発見と機能の解析の研究は、日本が世界に誇りうる独創性の高い研究です。

生命現象に重要な役割を果たすカルシウムイオン(Ca2+) を細胞内に貯蔵し放出する制御の主役を演ずるIP3受容体は、細胞の働きに必須にもかかわらず、薬理学的な概念のみで、その分子実体も局在も不明でした。御子柴先生は、小脳失調を起こす突然変異マウスで欠落するP400蛋白質を精製、解析(Dev.Neurosci.1979, J.Neurochem.1988)し、その特異的モノクローナル抗体を用いてP400がIP3受容体であることを証明し(Nature 1989)、分子量31万の巨大膜蛋白質の全構造を世界で初めて決定し(Nature 1989)、それが4量体からなるCa2+チャネルであり、また、小胞体に局在することを示しました(Nature 1989)。

構造解析によりIP3結合部位 (Nature 2002)や調節領域(Mol. Cell 2005)の3次元X線結晶構造を決定し、極低温電子顕微鏡により受容体全体の3次元微細構造も解析し(J.Mol.Biol. 2004)チャネルポアーの開閉機構も解明しました。生理機能を研究し、IP3受容体が受精(Science 1992, Cell 1993, Science 2002, J.Cell Biol.2003)、胚の背側と腹側の決定(Science 1997, Nature 2002b)、神経の突起伸展(Science 1998)に重要で、欠損マウスは発育障害や小脳失調(Nature1996)、海馬や小脳での神経可塑性障害を示しました(Nature2000、J.Neurosi.1998)。遺伝子欠損マウスを作製して外分泌機能に2型、3型IP3受容体が重要で(Science 2005)ヒト自己免疫疾患のシェーグレン症候群(血清にIP3受容体抗体を検出)の症状を呈しました。遺伝子変異によるヒトの小脳失調症家系も見出し、IP3受容体と酸化・還元反応がリンクして小胞体ストレスに関与し(Cell 2005)病気とも深く関わることを示しました。

IP3結合部位に結合してIP3により放出されるIP3の偽似体を発見し、アービットと命名し (Mol. Cell 2006) 、三次メッセンジャーとしてNa+HCO3-共輸送体1を標的として生体の酸・塩基の調節という全く新しい代謝経路を見出した(PNAS 2006)。脳の発生・分化の研究に基づき、IP3レセプターを発見し、小胞体からのCa2+放出による細胞内Ca2+制御が生命現象に必須であることを示し、世界をリードしています。

経歴
  • 生年月日:
    昭和20年3月3日
  • 勤務先:
    理化学研究所 脳科学総合研究センター 神経発達障害研究グループ
    〒351-0918 埼玉県和光市広沢2-1
    Tel: 048-467-9745/FAX: 048-467-9744
    科学技術振興機構 ERATO, ICORP-SORST 代表研究者
  • 学 歴:
    昭和44年3月
    慶應義塾大学医学部卒業
    昭和48年3月
    慶應義塾大学大学院医学研究科(生理系生理)博士課程修了
  • 学 位:
    昭和48年3月
    医学博士号(慶應義塾大学大学)
  • 職 歴:
    昭和49年4月
    慶應義塾大学医学部生理学教室 専任講師
    昭和51年 1月
    フランス パスツール研究所 研究員
    昭和57年 5月
    慶應義塾大学医学部生理学教室 助教授
    昭和60年 5月
    大阪大学蛋白質研究所 教授
    昭和61年 4月
    岡崎国立共同研究機構 基礎生物学研究所 教授(併任)
    平成 4年 4月
    東京大学医科学研究所 教授
    平成 4年 7月
    理化学研究所 主任研究員(併任)
    平成 7年10月
    科学技術振興機構 ERATO, ICORP-SORSTプロジェクト代表研究者
    平成 9年10月
    理化学研究所 脳科学総合研究センター
    脳科学総合研究センター グループディレクター(平成19年より専任)
    平成15年10月
    スェーデン・カロリンスカ研究所 客員外国人教授
    平成16年 4月
    慈恵会医科大学客員教授、山形大学客員教授
    平成17年10月
    日本学術会議会員
    平成19年 4月
    東京大学 名誉教授
  • 受賞歴:
    平成 9年
    上原賞
    平成10年
    慶應国際医学賞
    平成14年
    紫綬褒章
    平成15年
    Klaus Joachim チュールヒ賞
    平成16年
    武田医学賞
  • 所属学会など:
    日本神経化学会(理事長、理事、第41回日本神経化学会大会長)、日本生化学会(理事、第77回日本生化学会大会会頭)、日本生理学会 常任幹事等歴任
  • 編集委員:
    1999~2008
    国際誌「Science {ldelim}Science's STKE (Signal Transduction Knowledge Environment) Perspective{rdelim}」編集委員(American Association For the Advancement of Science 出版)
    2008 9月~
    「Science Signaling」
    2006~
    国際誌「Cell Calcium」編集委員(Elsevier出版)
    1993~1994
    国際誌「Neuron」編集委員(Cell Press出版)
    1993~2003
    国際誌「J.Neurochem」編集委員(Raven Press出版)


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