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2013年度 内藤記念科学振興賞
内藤記念科学振興賞に
東京大学 名誉教授/福井大学医学部高次脳機能 特命教授
坂野 仁先生
内藤記念科学振興財団(理事長:内藤 晴夫)は、このたび開催されました理事会において、東京大学 名誉教授/福井大学医学部高次脳機能 特命教授 坂野 仁先生に「第45回(2013年度)内藤記念科学振興賞」を贈呈することを決定いたしました。
受賞者には、賞状、金メダルのほか、副賞1,000万円が贈られます。
受賞対象研究内容及びご略歴
坂野仁先生
受賞対象研究内容
テーマ:『嗅覚系における神経地図形成の基本原理の解明』
ヒトを含む哺乳類の嗅覚系が多様な匂い情報を識別するからくりは、基質となる匂い分子とそれを検出する嗅覚受容体との結合情報が、脳の前方部にある嗅球に於いて二次元画像に変換される事にあります。高等動物では鼻腔にある数百万個の嗅神経細胞の各々が、約一千種類ある嗅覚受容体の内から一種類を発現し(1神経・1受容体ルール)、発現する受容体の種類に従って軸索を嗅球表面の特定の場所に投射し糸球体を形成します(1糸球体・1受容体ルール)。従って嗅上皮で受容された匂い情報は、嗅球ではいわば一千画素からなる糸球地図というデジタル画面に糸球の発火パターンとして画像化され、これをもとに脳の中枢がその質感を判断していると考えられています。私達はこの情報変換の基礎となる上記2つの基本ルールの分子基盤を世界に先駆けて解明し、更に最近では嗅覚情報がどのように情動や行動の判断に結びつくかについても重要な発見を行ないました。
先ず「1神経・1受容体」ルールに関しては、免疫系の抗体遺伝子に見られる対立形質排除の例をもとに、発現される嗅覚受容体分子によって負に制御されるネガティブフィードバックの考え方を導入する事によって、長年懸案であったこの嗅覚系の難問を解決しました。一方「1糸球体・1受容体」ルール、即ち、発現する受容体に従って軸索投射が制御される問題については、ノーベル賞を受賞したこの分野の著名な研究者達が、嗅覚受容体は嗅上皮で匂い分子を検出するのみならず、軸索末端にも発現してその投射先を嗅ぎ分けていると提唱し、一般に広く受け入れられていました。私達は遺伝子操作マウスを駆使した実験によって、彼等のいう「嗅ぎ分けモデル」に異議をとなえ、嗅覚受容体に固有なレベル産生されるcAMPによって軸索投射分子の発現量が決定され、投射位置が制御されている事を示しました。私達は最近、この軸索投位置を決定するcAMPの量が、実は個々の嗅覚受容体がリガンドのない状態で、活性化状態と不活性化状態を自律的行き来する分子ゆらぎの平衡点によって固有に決められているという驚くべき発見を行いました。
この研究は、これ迄GPCR分子のノイズとして片付けられていた基礎活性に積極的な機能のある事を示した最初の例であるのみならず、長年謎であった個々の嗅神経細胞のidentityを決める要因が分子レベルで明らかにされたという意味に於いても重要であると考えられます。これら一連の研究は「脳における神経配線がどの様に形成され、情動・行動の判断が下されるのか」という神経科学研究の中心課題の解明に大きく貢献するものとして国際的にも高く評価されています。
略歴
- 勤務先:
- 福井大学医学部高次脳機能
〒910-1193 福井県吉田郡永平寺町松岡下合月23-3
- 福井大学医学部高次脳機能
- 学 歴:
- 1971年
- 京都大学理学部卒業
- 1976年
- 京都大学大学院理学研究科生物物理学専攻博士課程修了
- 職 歴:
- 1976年
- 京都大学化学研究所 日本学術振興会特別研究員
- 1976年
- カリフォルニア大学サンディエゴ校 化学部博士研究員
- 1978年
- スイスバーゼル免疫学研究所 研究員
- 1982年
- カリフォルニア大学バークレー校 微生物・免疫学部 助教授
- 1987年
- 同 准教授
- 1987年
- 理化学研究所 主任研究員(併任、1989年迄)
- 1991年
- 岡崎基礎生物学研究所 教授(併任、1997年迄)
- 1992年
- カリフォルニア大学バークレー校分子細胞生物学部 教授
- 1994年
- 東京大学大学院 理学系研究科生物化学専攻 教授
- 2012年
- 東京大学 名誉教授、理学系研究科生物化学専攻 特任研究員
- 2013年
- 福井大学 医学部高次脳機能 特命教授
- 受賞歴:
- 1995年
- MERIT Award, NIH, USA
- 1996年
- 日産科学賞
- 2013年
- 東レ科学技術賞
- 2013年
- 武田医学賞
- 2013年
- 持田記念学術賞
- 所属学会:
- 日本分子生物学会
日本神経科学学会
- 日本分子生物学会